医療法人社団更生会 草津病院 精神科臨床研修規程
1. 研修理念
  精神科医として、医学・医療の社会的ニーズを認識しつつ、精神科診療で頻回に遭遇する病気や病態に適切に対応できるよう、基本的な診察能力(態度、技能、知識)を身につけるとともに、医師としての人格を涵養する。
2. 医療人としての基本的事項
 
(1) 感性の錬磨
 

患者や家族の苦痛を感じ取れる感性と、それを和らげる知識と技術を持つことは、医療に関わる者にとって重要な事項である。感性の訓練には、患者の訴えに耳を傾けて疾病及び患者を理解するのはもちろんであるが、患者を取り巻く人間関係に働きかけて多くの情報を得るとともに、あらゆる角度からその情報を分析して、患者の問題点を明確にすることから始まる。
それを通して患者を深く理解し共感すると同時に、患者や周囲への対応策が見えてくる。これが全人的医療と考えることができる

(2) コミュニケーション能力の獲得
  医療人として最も大事な資質のひとつはコミュニケーション能力である。医師単独で診療することは少なく、患者家族はじめ多くの職種の人々の協力のもとに診療が行われる。この場合に必要なのがコミュニケーション能力である。挨拶し、言葉を交わし話し合う。相手の気持ちを理解し尊重しつつ、自分の考えを述べることができる。相手を傷つけることなく謙虚な態度が必要である。
(3) 筋の通った医療
  根拠に基づいた医療を行う。性急な結果だけを求めるのでなく、なぜ・どういう理由で行うか、プロセスを大切にした医療を行う。そのために報告・連絡・相談などをきちんと行い、あるがままの現実を受け止め、失敗を恐れず、どうしたら事が成せるかを前向きに考えていく態度を習得する。結果として情報開示にも耐えられる医療を行う覚悟が必要である。日常医療行為の中で繰返し訓練する。
 
3. 研修の目標
 
(1) 一般目標(GIO:General Instructional Objectives)
 

精神症状を正しく診断し、適切に治療できるように精神疾患患者を担当し治療する。

 
#1. 精神症状の診断と治療技術を身につける。
  1.精神症状の評価と記載ができる。
2.診断(操作的診断法を含む)、状態像の把握と重症度の客観的評価法を習得する。
3.精神症状への治療技術(薬物療法、精神療法、心理社会療法、心理的介入方法)の基本を身につける。
#2. 医療コミュニケーション技術を身につける
 

1.初回面接のための技術を身につける
2.患者・家族の心理的理解のための面接技術を身につける
3.インフォームド・コンセントに必要な技術を身につける
4.メンタルヘルスケアの技術を身につける

#3. チーム医療に必要な技術を身につける
 

1.チーム医療モデルを理解する
2.他職種(コメディカルスタッフ)との連携のための技術を身につける
3. 他の医療機関との医療連携をはかるための技術を身につける。

#4. 精神科リハビリテーションや地域支援体制を経験する
 

1.精神科デイケア(ナイトケア・デイナイトケアを含む)を経験する。
2.訪問看護・訪問診療を経験する。
3. 社会復帰施設・居宅生活支援事業を経験し、社会資源を活用する技術を身につける。

(2) 行動目標(SBO:Specific Behavioral Objectives)
 
1) 症例を担当し、診断(操作的診断法を含む)、状態像の把握と重症度の客観的評価法を修得する。
2) 向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬等)を適切に選択できるように臨床精神薬理学的な基礎知識を学び、臨床場面で自ら実践できるようにする。
3) 家族からの病歴聴取、病名告知、疾患・治療法の患者家族への説明を実践する。
4) 病気に応じて薬物療法と心理社会的療法をバランスよく組合せ、ノーマライゼーションを目指した包括的治療計画を立案する。
5) コメディカルスタッフや患者家族と協調し、インフォームド・コンセントに基づいて包括的治療計画を実践する。
6) 訪問看護や外来デイケアなどに参加し地域医療体制を経験するとともに、社会復帰施設を見学して福祉との連携を理解する。
4. 研修内容
  草津病院及び関連施設で行う。
 
(1) 経験する疾患・病態
 

覚醒剤などの精神作用物質による精神及び行動の障害(アルコール依存は除く)以外の疾患について経験する。
1年間で、精神保健指定医取得のための症例を経験することが十分可能。
(任意・医療保護・措置入院を経験可能)

(2) 修得すべき事柄の概要
 
1. 精神医療概論:外来、入院治療を経て社会復帰に至る精神科医療の特徴を修得する。
2. 臨床精神薬理:向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬など)の作用・副作用・使用法について修得する。
3. 精神保健福祉法他:精神保健福祉法を中心に法と精神医療について修得する。
4. 精神障害者福祉と社会復帰活動:社会復帰施設の種類、地域支援の方法について概要を修得する。
(3) 経験する治療法
 

薬物療法;副作用(錐体外路症状、悪性症候群を含む)についても経験する。
精神療法;支持的精神療法、心理社会的療法(生活療法)、集団療法など
作業療法
SST
チーム医療・社会復帰活動・地域リハビリテーション・地域ケアへの参加
研修の一般目標
#1.プライマリ・ケアに求められる、精神症状の診断と治療技術を身につける
#2.医療コミュニケーション技術を身につける
#3.精神科リハビリテーションや地域支援体制を経験する。


精神科臨床研修医の先生方へ
以上、当院における一般的な精神科研修内容をご紹介させて頂きましたが、以下に補足させて頂きます。
  • 特にストレスケア病棟に入院されてこられる患者は、疾患や本人のみを診察するだけでは、治療が困難な場合があります。家族の健康維持・病理への介入もしっかり行うことで、病状の再燃を防ぐ事を学んで頂きたいと思います。また、ただ「ストレスを解消する、休息する」ことが目的の入院では、単に退行を引き起こし逆に入院が病状悪化を引き起こすこともよく見られます。この患者にとって人生の中で「今、何が必要なのか」を理解し、患者と共有し、入院目標をはっきりさせる事が大切です。むしろ、入院中にしっかり考えてもらうこと(本人にとってストレスですが)が入院治療であると考えています。その経験をして頂きたいと思っています。
  • ある程度経験を積まれたら、地域の研修会へ講師として参加して頂こうと考えています。特に精神医療は地域の理解も乏しいため、地域の方の精神医療に対する考えを知って頂く事は、自分の診療スタイルを見直す大切な機会です。
  • 精神的な不調(疾患を含む)は、一般的な感覚でいう病状が軽い疾患(適応障害など)ほど、その人の人生観や治療への期待をはっきりさせ、状態に応じた複雑な対応が必要となります。この事を学んで頂くことは、他の精神疾患を治療する上でも幅広く応用できるものと考えます。一般的な精神病院では、いわゆる精神病レベルの患者の診察が中心となりますが、当院では、統合失調症など生物学的モデルでの対応(薬物療法)が中心となる疾患から、適応障害・夫婦関係の問題など社会的モデルの対応が中心となるものまで幅広い患者を経験する事ができるのが特徴です。

    その他ご質問がございましたら、遠慮なくおたずねください。
    意欲ある先生方とご一緒に医療ができますことを心より願っております。

    医療法人社団更生会 草津病院
    院長 佐藤 悟朗

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